仙台高等裁判所 昭和58年(う)100号 判決
1 控訴趣意二ないし四(原判示第一に関する事実誤認)について
論旨は,原判決は,被告人が原判示第一の日時,場所において,最高速度が40キロメートル毎時と指定されているところを55キロメートル毎時の速度で普通乗用自動車を運転した旨認定するが,被告人は右速度で運転していないから,原判決には事実誤認がある,というのである。
そこで検討すると,原判決挙示の各証拠によれば,原判示第一の事実は十分にこれを肯認することができ,更に記録を精査し,当審における事実取調べの結果を併せて検討しても,右事実認定について合理的な疑いをいれる余地はない。
所論にかんがみ補説するに,検察官事務取扱検察事務官作成の昭和56年6月22日付捜査報告書,原審証人最上信之,同三浦智の各供述,その他の関係証拠によると,原判示第一の日時,場所において,自動車の速度違反の取締りに従事した警察官最上信之,同三浦智らは,三菱製RS-720形レーダスピードメーターを速度測定に使用し,遠くまで測定可能の感度「高」にセットし〔(注)照射角度は約5度にセット〕,設定速度を52キロメートル毎時に設定し,それ以上の速度が出ている違反車両の場合は警報ブザーが鳴る状態で交通取締りをしていたところ,被告人車の前方を走行する自動車(以下,前車という。)がレーダのアンテナから約110メートル離れた横断歩道を通過したところ,右スピードメータが時速48キロメートルを表示したが,次いで,前車から60メートル位後方の被告人車が横断歩道を通過したころ急に時速55キロメートルを表示するとともに警報ブザーが鳴ったこと,現認係をしていた最上は,前車が加速したのであれば48から49,50,51と順次上がるはずなのに,急に55を表示したのは後方の被告人車の速度が測定されたからであると考えたが,念のためリセットボタンを押し表示されていた数字をゼロに戻し,前車がアンテナの真横付近を通過してレーダに入らなくなったころを見はからって測定し直したところ,前同様時速55キロメートルを表示し警報ブザーが鳴ったので,被告人車の速度に間違いないと考え,停止係の三浦智に被告人車の停止を命じ,同人が被告人車を停止させたことが認められる。所論は,右スピードメータのカタログによると,「測定可能距離は約5~50メートル。」とされているのであるから,アンテナから110メートルも離れた横断歩道通過時の速度の正確な測定は不可能であり,また,極めて短時間内に再度測定可能か疑問である,と主張する。しかし,当審証人中村泰而の供述によると,同人はレーダスピードメータの開発段階から設計などを直接担当した者であるが,所論指摘の「測定可能距離」とは,電波法上許容されている送信電力が一番低く,アンテナ利得も低い場合であっても,50メートル先までは測定の正確性を保障するという趣旨であり,それ以上の離れた距離でも右スピードメータによる測定が可能であり,データによれば,中型乗用車でも100メートル以上,トラックの場合は150メートル位まで測定可能であったことが認められる。また,当審証人村並正啓の供述によっても,周囲の状況,車種により140ないし150メートル離れていても右スピードメータによって測定可能な場合があることが認められる。してみれば,右スピードメータのカタログにある「測定可能距離」の記載が約5~50メートルであることをとらえ,本件測定の際の右スピードメータの右55キロメートルの表示が不正確であると即断するのは相当ではない。なお,両証人の各供述によれば,科学的,原理的に,どのような場合でも実際の速度より低い数字が表示されることはあっても高い数字が出ることはないことが認められるから,少なくとも違反車両の実際の速度が表示された55キロメートル毎時より遅い速度であったとは解し難い。また,被告人車の速度超過確認のために2回測定したことは,最上,三浦の前記各証言により明らかなところである。
以上の次第で,関係各証拠に照らし,原判示第一のように被告人車が55キロメートル毎時の速度を出していたことは合理的に十分認めることができる。これに反する被告人の弁解,所論はいずれも採用し難く,論旨は理由がない。
2 控訴趣意五(原判示第二に関する事実誤認)について
論旨は,原判決は,被告人が原判示第二の日時,場所において,最高速度が40キロメートル毎時と指定されているところを55キロメートル毎時の速度で普通乗用自動車を運転した旨認定するが,被告人は右速度で運転していないから,原判決には事実誤認がある,というのである。
そこで検討すると,原判決挙示の各証拠によれば,原判示第二の事実は十分にこれを肯認することができ,更に,記録を精査し,当審における事実取調べの結果を併せて検討しても右事実認定について合理的な疑いをいれる余地はない。
所論にかんがみ補説するに,原審証人佐野正三の供述によると,警察官である同人は,原判示第二の日時,場所において現認係として三菱製のRS-720R形レーダスピードメータを使用し〔(注)夜間のため照射角度は約25度にセット〕,交通取締りに従事していたところ,アンテナの位置から約15メートル南方付近を普通乗用自動車が通過した際,警報ブザーが鳴り55キロメートルと表示されたので,後部ナンバープレートで車両番号を確認し,約200メートル北方の停止係に告知したこと,右自動車より目測約70メートル離れて先行車両(以下,前車という。)があり,目測約50メートル離れて後続車両(以下,後車という。)があったこと,右のように50メートルと目測したのは,アンテナの位置から南方約100メートルの所に時速40キロメートル制限の指定標識があり,これをもとに目測したものであること,違反車を運転していたのは被告人であることが認められる。所論は,(1) 被告人が現場を見たときは標識は存在しなかったし,司法警察員作成の昭和56年3月27日付現場写真撮影報告書の写真にも右標識は見られないこと,(2) 佐野証人は,「同人が停止係の青木秀雄に通報したころ,前車は停止係のあたりを通過して間もないころであった。」旨供述するが,原審証人青木秀雄は,「被告人車と前車は接近していたので,両車を停止させた。」旨,佐野証人とは異なった供述をしていること,(3) 被告人の妻大場幸子,被告人の母大場孝子も原審公判廷において,「現場より1キロメートルないし500メートル位手前で,対向車のライトの合図により取締りをしていることを知り,速度を落した前車は遠ざかって行った。」と述べていることなどからすると,佐野証言の信用性には疑問があり,被告人車と前車の車間距離が接近していたとすると,どちらの車両の速度が計られたか断定するのは困難であるなどと主張する。しかしながら,上記の佐野証言は,当時記録係の原審証人及川洋二が,現認係の佐野正三に状況を確認したところ,被告人車と前車と70メートル,後車と50メートル以上の間隔があると説明された旨右佐野証言と符合する供述をしていることなど,関係各証拠と彼此照合してみて,信用に値するものというべきである。確かに,司法警察員作成の昭和56年3月27日付現場写真撮影報告書の写真によると,現認係の位置から約100メートル南方の位置に佐野証人がいうような時速40キロメートル制限の指定標識があるとは認められないが,原審証人青木秀雄の供述によれば,当時は現場付近で団地造成工事がなされていて,その関係で標識が設置されたかもわからないというのであり,そうだとすると,右写真撮影報告書作成時までに,団地造成工事の進ちょくに応じ右標識が取り払われ,あるいは移動されたことも考えられ,また,佐野正三作成の昭和55年9月25日付捜査報告書によると,標識の記載がなされている図面が作成されたのは本件取締りがなされた日の翌日であるから記憶違いとは考えられず,佐野警察官がかかる客観的事実につきことさらに虚偽の図面を作成したとも解し難い。そして,大場幸子,大場孝子は前記所論(3)のような供述をしているけれども,右青木証人は,「同人が停止係りとして被告人車を止めようとしたとき,被告人車と前車の間隔は20メートル弱位であった。」旨供述しており,右供述内容は関係証拠と此照してみて信用することができ,これに反する,現認地点以前に被告人車が速度を落とし,前車は遠ざかって行った旨の大場幸子らの供述は容易に採用しがたい。佐野証言には,前記所論(2)のように青木証言と矛盾するとも考えられる供述部分があるが,右に検討したところを含めその供述は大筋において信用することができ,その使用したレーダスピードメータの測定機能,その正確性については原判示第一のこの点に関する説示部分と同様であって,関係各証拠を総合すれば,被告人車が55キロメートルの速度を出したことは十分認めうるところである。これに反する被告人の弁解,は採用できない。
以上のとおり,所論はいずれも相当でなく,論旨は理由がない。
3 控訴趣意二,六(原判示第三に関する事実誤認)について
論旨は,原判決は,被告人が原判示第三の日時,場所において,最高速度が40キロメートル毎時と指定されているところを毎時59キロメートルの速度で普通乗用自動車を運転した旨認定するが,被告人は右速度で運転していないから,原判決には事実誤認がある,というのである。
そこで検討すると,原判決挙示の証拠によれば,原判示第三の事実は十分にこれを肯認することができ,更に記録を精査し,当審における事実取調べの結果を併せて検討しても,右事実認定について合理的な疑いをいれる余地はない。
所論にかんがみ補説するに,原審証人斉藤久徳,同高田等平の各供述,その他の関係証拠によると,原判示第三の日時場所において,自動車の速度違反の取締りに従事した警察官斉藤久徳,同高田等平らが三菱製RS-7AD形レーダスピードメータを用い,遠くまで測定できる「遠」にセットし〔(注)照射角度は約5度にセット〕,設定速度を53キロメートル毎時に設定し,それ以上の速度が出たときは警報ブザーが鳴る状態で交通取締りをしていたところ,被告人車が右スピードメータ設置位置,現認位置より120ないし130メートル離れた地点にまで到達した時点で,速度表示装置が時速59キロメートルを示し,警報ブザーが鳴ったこと,被告人車の前後に自動車はなかったことが認められる。所論は,右スピードメータの取扱説明書には,「測定可能距離5メートルから70メートル」と記載されているのであるから,120ないし130メートルも離れた所で正確な測定はなしえないなどと主張する。しかし,取扱説明書に記載されている測定可能距離の意義,実際に測定できる距離,実際の速度より速い速度を表示することのないことはいずれもさきに原判示第一の事実に関し説示したところと同様であり,以上の諸点に照らせば,被告人車が時速59キロメートルの速度で走行していたものと認めるのが相当であって,不合理であるとは思われない。これに反する被告人の弁解は採用できない。
所論は採用し難く,論旨は理由がない。
4 控訴趣意二,七(原判示第四に関する事実誤認)について
論旨は,原判決は,被告人が原判示第四の日時,場所において,最高速度が30キロメートル毎時と指定されているところを毎時47キロメートルの速度で普通乗用自動車を運転した旨認定するが,被告人は右速度で運転していないから,原判決には事実誤認がある,というのである。
そこで検討すると,原判決挙示の証拠によれば,原判示第四の事実は十分にこれを肯認することができ,更に記録を精査し,当審における事実取調べの結果を併せて検討しても,右事実認定について合理的な疑いをいれる余地はない。
所論にかんがみ補説するに,司法警察員作成の昭和55年12月2日付交通事件原票,原審証人品川忠之,同吉田裕幸の各供述,その他の関係証拠によると,原判示第四の日時場所において,警察官品川忠之,同吉田裕幸らがレーダスピードメータ〔(注)RS-7AD形,照射角度は約5度にセット〕を用い,自動車の速度違反の交通取締りをしていたところ,レーダ設置場所から目測約50メートル西方のカーブを曲り切った所に被告人車が現われたとき警報ブザーが鳴り,毎時47キロメートルの速度を表示したこと,同所はレーダ設置場所からみて右カーブになっており,カーブの向う側は木立で見通しがきかないこと,被告人車と20ないし30メートル離れて後続車(以下,後車という。)があったことが認められる。所論は,被告人車は右のような速度は出しておらず,後車の速度を測定した可能性が十分考えられると主張する。しかし,佐藤喜己の検察官事務取扱検察事務官に対する供述調書によると,被告人車に同乗していた同人は,被告人車が毎時50キロメートル近い速度で走っていた旨供述していること(右供述調書の供述は,同人が原審公判廷において,右調書における供述は,経験したことをありのままに述べたものである旨供述していることなどに照らしても,信用性に富むものというべきである。)また,品川忠之は,検察官事務取扱検察事務官に対し,後車も被告人車と同じ位の速度で走行してきたようである旨述べていることに徴すると,被告人の供述するように被告人車の速度が40キロメートル毎時で,他方後車の速度が47キロメートル毎時であったとは信じがたいこと,木立の陰から被告人車が現われてカーブを曲り切ったちょうどそのころ毎時47キロメートルの速度を表示し警報ブザーが鳴っているが,木の葉や枝も電波のしゃへい物になる旨の当審証人中村泰而の供述に徴すると,右の地点で警報ブザーの鳴ったころ被告人車の速度を測定しうるに至ったものと解されることなどを併せ考えると,右スピードメータに表示された毎時47キロメートルの速度は被告人者の速度であって後車の速度ではないと認めるのが相当である。これに反する被告人の弁解は採用できない。
したがって,所論は採用し難く,論旨は理由がない。